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「う、うわぁ〜・・・」
驚くあたしの目にはこの17年間全く縁の無かった、すごく高そうなレストランが映っていた。
その煌びやかな建物に圧倒されて、足が地面にくっ付いたように動けなくなっていたあたしの肩を帝君が励ますように軽く叩いた。
見ると、飛び込んでくるあの王子スマイル。
"帝"なんて、名前負けしてしまいそうだけど、彼なら見事に合っている。むしろピッタリだ。
こんな理想的な人がこれから弟になるかもしれないなんて、本当に夢みたいだわ。
ぼんやりと考えるあたしを帝君はレストランの中へといざなう。
ヨーロッパのお城を思い出させるレストランに入ると、またも呆然とする光景があたしの目に飛び込んで来た。
ズラリと並ぶスーツの従業員達があたし達を見るなり一斉に頭を下げてこう言ったのだ。
「いらっしゃいませ桐堂様。お待ちしておりました」
凍りつくあたしを傍らで、帝君は余裕の笑み。
「ああ。席は用意出来ている?」
「はい。ただ今ご案内致します」
支配人と思われる中年の男性が丁寧に返し、あたし達を奥の部屋へと案内する。
あたしは親鳥に付いて歩くひよこみたいに帝君にくっついて行くしかない。
キョロキョロと部屋を見渡して、その豪華さに眩暈をおこしつつ、あたしは一つを疑問を持った。
こんなに高級なレストランなのにお客さんが一人もいない。
不思議に思い、少し前を歩く黒髪に尋ねる。
すると、少年は一瞬ポカンとした後、心得たように笑った。ああ、相変わらず綺麗だわ。
「今日は貸切にしてあるから、僕達だけなんです」
それを考えなかったわけではない。今までの帝君の様子や態度でかなりのお金持ちだとは分かっていたから。
「・・・どうしてわざわざ貸切にしたの?」
「?人がいたら話しにくいでしょう」
絶句。
そんな理由で貸切にするなんて。お金持ちのやる事って分からない。
頭を抱えたあたしを不思議そうに見る帝君が少し恨めしく思えた。
一番豪勢な、いわゆるVIPルームのようなところに通されて用意された席に座る。
ママ達はまだみたいだ。
今日一日で色んな事がありすぎて、椅子に座った途端にどっと疲れが押し寄せてきた。
しかし、ここは決してくつろげるような場所ではない。
それに比べて帝君はさすがに慣れていて、メニューを片手に支配人さんに何やら言っている。
もしもママが結婚したら、当然あたしは桐堂家に加わる事になるのだろう。
そうしたらこんな事は日常茶飯事になるのだろうか。
あたしが優雅なドレスを着て、今日のお勧めは?なんて言ってるところを思い浮かべて思わず吹き出しそうになった。
無理だ。絶対に無理。お笑いにしかならない。
と、あたしの前に可愛らしい紅茶のカップが置かれた。
驚いて見ると、帝君の前にも同じように紅茶があった。
戸惑うあたしに帝君はそれを手に取って一口飲む。そして、あたしに向かって軽くカップを上げて見せた。
あたしは帝君にならうようにしてそれに口を付けた。
「おいしい・・・」
ポツリともらしたその言葉に、帝君は嬉しそうに言った。
「そうでしょう?僕も大好きなんですよ。気に入ってもらえて嬉しいです」
先ほど支配人と話していたのはこのためだったのか。
もしかして、あたしのためにこの紅茶を出してくれたんだろうか。
自意識過剰かもしれないけど、そう思うと心が温まり、緊張が少し和らいだ。
お金持ちの生活は大変かもしれない。だけど、帝君がいるなら頑張れるような気がする。
自然と顔が綻んで、あたしはもう一口紅茶を飲んだ。
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