あたしは持ち前の運動神経で遅刻せずにすんだ。
 と言っても、チャイムと同時に教室に入ったので本当にギリギリだったが。


 「おはよ〜」
 息を整えながらクラスの皆に挨拶をしていく。まだ先生は来ていないみたいだ。

 ほっと息をついて席に着いた時、パタパタと軽い足音と共にあたしの一番の親友である美子がやって来た。
 「おはよう茉莉ちゃん。ギリギリセーフだね」
 そう言ってニコリと笑う美子は本当に可愛い。女のあたしでも時々ドキリとする。
 普通なら男子も放っておかないだろうけど、ここは女子校。それに美子は男子が苦手だから浮いた話一つ無い。

 こんなに可愛いのにもったいないよ本当に。

 知らず知らずのうちに眉を寄せるあたしを心配そうに美子は見詰める。
 「茉莉ちゃんどうかしたの?大丈夫?」
 「あっゴメンゴメン。何でもないよ」
 慌てて否定してそれよりも、と切り出す。

 「先生遅いみたいだけど、何かあった?」
 「あ、先生は今日お休みよ。だから今日の1時間目は自習になるみたいで、皆喜んでいたわ」

 それを聞いて、あたしは喜ぶより先に脱力した。あんなに走ったって言うのに・・・。

 「そんなに落ち込まないで。ね、監督の先生も来ないみたいだからお話しようよ」
 励ますように言って、あたしの前の席に腰を下ろす。


 「それにしても何で今日はこんなに遅いの?寝坊かなにか?」
 美子のその質問に、あたしははっとした。遅刻よりも、もっと大切な問題があったことを思い出したからだ。




 母親の再婚




 まだ自分でもちょっと信じられない気持ちなのだが、美子に相談してみようか。

 人に言う事で実感が出て気持ちの整理がつくかもしれない。

 あたしはそう考えて、美子に今朝起きた事を話した。






 「それはまた突然ね。愛美さんらしいと言えばらしいけど・・・」
 美子は意外と冷静だった。ちなみに愛美と言うのはあたしのママの名前だ。おばさんと呼ばれるのを嫌がるため、名前で呼んでいる。

 「その再婚相手がどんな人かはまだ分からないんでしょう?」
 「うん」

 そうなのだ。バタバタしていたからどんな人物なのかは明と言う名前しか分からない。
 困っていたママを助けてくれたぐらいだから優しい人なのだろうと思っているが。

 「その相手の人にも子供がいるの?」
 その一言にあたしは目を見開いた。

 今朝、ママは何て言ってた?相手の方にもお子さんがいらっしゃるとか言ってなかったか?

 そんなあたしの様子で全てを察知したのか、美子が苦笑しつつ言った。
 「茉莉ちゃん兄弟欲しがってたから良かったんじゃないかな?きっといい人だよ」
 あたしは小さく頷く。
 一人っ子のあたしはずっと兄弟が欲しかった。
 だが、突然兄弟となる事など出来るのだろうか。あちらはそんな気はさらさらないのかもしれない。

 そう言うと、美子はいつもの優しい笑顔を返してくれた。
 「そんな弱気、茉莉ちゃんらしくないよ?」
 「うん、そうだね。ありがとう美子」
 美子を安心させるように微笑んだところで1限目の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
 次は音楽室に移動だよ、と言って自分の席に戻っていく美子を見送りながらあたしはそっと息をついた。


 ママの再婚相手とその子供がいい人でありますように、と願いながら。











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