当たり前だが授業中の女子寮には生徒は誰もいなかった。その中でも紫織と朱里の部屋しかない3階は一層静けさに包まれている。

 「夕食の時間になったら呼びに来るから、それまでは部屋から出ないでちょうだいね」
 「はい。また後で」

 紫織の素直な返事に朱里は小さく頷くと、自室へと消えていった。
 彼女ともっと話がしたいと考えている紫織は名残惜しげにドアを一瞥するが、すぐに真新しい自室へと入った。

 真偽は定かでは無いが、朱里は疲れていると言っていた。それならばそっとしておいてあげなければ。

 言い聞かせるようにそう考え、慣れない部屋の備え付けベッドにぎこちなく座り、携帯を手に取る。
 そしてアドレス帳から翠の名前を探し出した。彼女にはつぶさに連絡を入れるように言われている。本来なら蒼司にすべきなのだが、彼は携帯を持っていないので仕方が無い。

 大丈夫だと言う事と、紫姫についての書物があるかどうか尋ねる内容を打ち込むと、送信ボタンを押す。

 「・・・何だか私も眠くなってきちゃった」

 朱里の眠気が移ったのか、敵陣の中と言う事で緊張と疲労が溜まったのか、紫織の瞼が急激に重くなっていく。
 張り詰めていたものが解かれるように、紫織は制服が皺になるのも気にせず横になった。

 夕食まではまだ時間がある。少しだけなら眠っても大丈夫だろう。

 霞がかった頭で考えると、本能に従って目を閉じ、夢の世界へと体を委ねた。









 「・・・ん」

 ふと気が付くと、辺りは夕闇に包まれていた。一瞬自分がどこにいるのか分からなくなった紫織は起き上がってぼんやりと辺りを見回す。
 見慣れない部屋に見慣れない家具、ここは――

 「夕食・・・!」

 一気に覚醒した紫織は慌てて暗闇の中で時計を探す。

 「・・・7時・・・7時!?」

 暗闇に慣れない目で何とか時間を知ると、ますます慌ててベッドから飛び出る。
 夕食は確か6時からだったはずだ。それなのに1時間も過ぎてしまっている。

 「どうしよう。朱里さん・・・」

 呼びに来ると言っていたが、どうしたのか。きっと眠っていたせいで気付かなかったのだろう。
 紫織は不安に思いながらも部屋の外に出る。朱里から一人では出るなと言われていたが、今は気にしていられない。

 精一杯辺りを警戒しながら隣室のドアを叩く――が、いくら叩いても中から返事は無かった。

 やはり先に行ってしまったのか、と考えつつ試しにのぶを捻ると意外にも簡単にドアは開いた。

 「朱里さん?」

 もしかしたら朱里も同じ様に眠っているのでは、と紫織は小声で彼女の名前を呼びつつ部屋の中へと足を踏み入れた。
 しかし、予想に反してベッドはもぬけの殻で部屋のどこにも朱里の姿は見えなかった。

 鍵をかけないで食堂に行ってしまったのか、と紫織もすぐに後を追おうとした瞬間だった。

 ガタッと扉が閉まる音が背後から聞こえた。

 え、と紫織が振り向いた先にいたのは彼女の知っている朱里ではなかった。

 「え・・・」

 長い黒髪。気の強そうな目。華やかな美貌――その全てが目の前の人物を朱里だと教えてくれる。

 だが、それは朱里では有り得ない。
 視線を落とすと無防備な裸の上半身が飛び込んで来る。

 「ど、うして・・・」

 眼前の人物には胸の膨らみが無く、代わりにしなやかな筋肉がついている。紫織とは大きく異なる半身はどう見ても女のそれではなく――

 「男・・・」











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