政略結婚のススメ






 「初めまして」
 「・・初めまして」


 「私、藤原奈津です」
 「・・藤原総一郎です」
 「これからよろしくお願いします」
 「はい、こちらこそ・・」


 「・・・突然ですけど、ずっと聞きたい事があったんですけどいいですか」
 「え?はい、どうぞ」
 「どうして私なんです?私はまだ16歳になったばっかりだし特に美人でも何でもないのに・・・もしかしてロリコンですか・・?」
 「えぇ!?ち、違いますよ・・えっと、ですね・・」

 「総一郎さんって26歳ですよね?まだ若いんだから焦ってこんな餓鬼と結婚しなくても良かったんじゃないですか」
 「・・もしかしてお嫌、でしたか?」
 「はっきり言うとそうなりますよ。だってまだ高校生なのに結婚、しかも初夜まで顔も見た事もない相手なんですよ?本当に平成の世かと疑いました」
 「すみません・・・古い仕来りで、僕も反対したのですが・・」
 「もう別にいいですけどね。総一郎さん、思ってたよりおじさんじゃないし、顔もまぁ許せます」
 「光栄です・・奈津さんも・・可愛らしいです」


 「そ、そう言う事を面と向かって言わないで下さい!鳥肌立つ・・」
 「す、すみません・・どうも思った事を口にしてしまう達でして・・不快に思われたならお詫びいたします」
 「いちいち謝らないで下さい・・名家のお坊ちゃん育ちなのに謙虚ですよね」
 「祖母が躾の厳しい方でして、気が付いたら・・・すみません」
 「だから謝らないでって言ってるんです!もう少し年上の威厳とか、これから夫になるんだからもうちょっとしっかりしてもらわないと」


 「・・じゃぁ奈津さんは僕と結婚して下さるんですか?」
 「と言うか、もうしちゃってますよ?結婚式はまだですけど今夜は初夜ですし婚姻届は先に提出したらしいし」
 「そ、そうですよね・・・奈津さんが僕の奥さんに・・夢のようです」
 「・・・あの、私達って初対面ですよね?遠い親戚と言ってもあなたは本家の人間だし、会った事なんてありましたっけ」


 「実は1度だけあるんですよ」
 「え?もしかして昔、総一郎さんは何か心に傷を負っていて、それを私が何か癒して、それからずっと私ばかりを・・みたいなベタな設定ですか?」
 「いや・・会ったと言うか僕が一方的にあなたを見ただけなんですけど」
 「・・・・・・それって何年前ですか?3年以上前だったら完璧にロリコン確定ですよ」
 「良かった・・1年前です。これってセーフですよね」
 「でもその時私は中学生ですよ?なんですか、セーラー服好きとか」
 「あなたはどうあっても僕を変態にしたいんですね・・」

 「あくまで一般論ですよ。10歳差は珍しくないかもしれませんけど相手が16って、そうそうないと思いますよ」
 「やっぱりですか・・しかし奈津さんには申し訳ないのですが、僕はこらえ性がないようで待てなかったんです・・奈津さんが大人になるまで」
 「・・・・・・」
 「それに待っていたら僕はどんどん年を重ねてしまいます。若いあなたにますます相応しくなくなると思って・・」
 「で、勢い余って両親に結婚を申し込んだわけね」
 「はいぃ・・」


 「・・両親は喜んでいたわ。まさか本家の坊ちゃんがって驚いてたけど玉の輿だし・・私が苦労するかも、とか若すぎるとか考えなかったアホな両親で助かったわね」
 「そのような言い方は・・・ひょっとして怒っていらっしゃるんですか」
 「当たり前でしょう!?突然結婚しろとか言われて、相手は顔も見た事なくて、あっという間に・・初夜なんて・・うぅ」
 「安心して下さい、奈津さんには指一本触れませんから」
 「何!?私が餓鬼だから興味も湧かないって事!?」
 「えぇ!?」

 「・・乙女心は複雑なのよ。26年も生きてて・・そんな事も分からないの」
 「すみません・・あなたを悲しませるつもりはないのです。ただあなたの良い様にと・・」
 「だったら今すぐ離婚して。そして私を家に帰して。16にしてバツイチになるのは正直嫌だけどこの際我慢するわ」
 「えぇ!?でも先程結婚を了承してくださると・・」
 「あんなの嘘に決まってるでしょうが!日本人特有の本音と建前よ!誰が16で結婚なんて・・・!」
 「・・いくら奈津さんの頼みでもそれは・・出来ません」
 「どうしてよ!良い様にするって言ったじゃない!」


 「やっと手に入れたあなたを1日にして失うなんて耐えられません」
 「やっとって・・1年でしょ?」
 「すみません・・嘘を吐いていました・・実はもっと前から・・」
 「やっぱり変態ロリコンじゃない!いや〜夫が変態なんて絶対いや〜」
 「そ、その時は勿論恋愛感情などありませんでしたよ!?ただ、明るくて可愛らしい子だな、と」
 「その発言が変態なのよ。ちょっと、こっちに近寄らないで!ここからこっちに来ないで!」

 「・・・ご存知と思いますが、藤原家では本家と分家の格差が激しくしばしばいざこざがあったのです・・僕も幼い時からそれに触れて疲れてしまっていて・・」
 「やっぱりベタなパターンだったんじゃないの!」
 「はい、その通り。疲れた僕の心は分家の出身のあなたの屈託のない笑顔に癒されました」
 「開き直ったわね!この変態ロリコン!」
 「何とでも言って下さって結構です・・何年かして成長したあなたの変わらない笑顔を見て、この方となら僕も笑って過ごせるかもしれない、と思い結婚を申し込んだのです」

 「・・笑ってなんて過ごせないわよ。毎日泣いて、離婚届け突きつけてやる」
 「それも面白そうです。新鮮な日々が過ごせそうです」

 「ちょっと!?近寄らないでって言ってるでしょう!?」
 「せっかくの新婚初夜なんですからつれない事は無しにしましょう」
 「さっき私に指一本触れないって言ったじゃないの!忘れたとは言わせないわ!」
 「すみません、年のせいか物忘れが酷くて・・」
 「っぎゃー!変態変態変態!!嘘つきー!このオヤジー!」
 「旦那様、でしょう?」
 「キャ、キャラが違うわ!さっきまでのヘタレキャラはどこへ!?丁寧言葉の腹黒キャラとかそんな・・そんな・・・!」
 「すみません、王道キャラなもので・・」


 「そ・・っ!ちょっ、本気!?」
 「僕はいたって本気ですが」
 「ぎゃぁぁぁぁ〜!」
 「・・もう少し色気のある悲鳴をお願いしたいものです」

 「〜〜〜〜〜っ!・・こ、の・・・変質者―――!!!」









 「・・・思えば私達の出会いって最悪だったわね」
 「そうですか?とても素敵だと思いますが」
 「ヘタレキャラから突然強引腹黒キャラへの華麗なる転身には驚いたわ」
 「あれですよ、油断させて・・と言うやつです。あんな性格ではこの家では生きていけませんからね」
 「・・・変態ロリコン」
 「あなただからこそですよ、奈津?他に興味もありません。僕にこんなに思われて、あなたは何て幸せな奥さんでしょう」

 「はぁ・・・あの時舌でも噛んでれば良かったかな・・それか駄目もとで逃げれば・・」
 「それは無理ですよ?始めに言ったでしょう?僕はこらえ性がないんです・・そんな事をされては何をしてしまうか・・」
 「・・ヘタレ、腹黒の上に鬼畜まで・・なにこれ、犯罪だわ」

 「すみません・・・なにしろ僕は王道キャラなもので」
 











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